マイクロ・ミニLEDディスプレイを取り巻く現状
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マイクロ・ミニLEDとは
マイクロLEDとは個々の画素に非常に微細なLED素子を配列し、その発光を独立して制御する方式です。
マイクロLEDとミニLEDの定義の違いはそのサイズにあります。個々の画素に搭載されるLEDのサイズは1辺が100μm(0.1mm)以下のものをマイクロLED、100μm(0.1mm)以上をミニLEDと呼びます。この100μm(0.1mm)を境に分類するのがひとつの目安とされています。
マイクロ・ミニLEDは自発光ディスプレイのため、コントラスト表現が液晶ディスプレイより優れています。これまで液晶ディスプレイではバックライトからの光を完全に遮ることができなかっため黒を表現しようとも、光が若干漏れてしまい白っぽい黒になっていました。これは画面上に常に白色が存在するため起こる現象です。それに対してマイクロ・ミニLEDディスプレイでは、自発光のためコントラストを高くでき漆黒表現が可能。奥行のあるリアルな映像体験ができるようになりました。
自発光ディスプレイとしては、有機ELディスプレイも漆黒表現が得意とされていますが、有機ELでは発光素子の劣化による焼き付きの問題が発生します。この焼き付きがないのもマイクロLEDの特徴です。
これらの特徴のように有機ELと比べても利点があることからマイクロ・ミニLEDディスプレイは究極のディスプレイとも呼ばれています。
※マイクロLEDとミニLEDは用途が異なることがあります。これらの違いについてはこちらの記事を参照下さい。
マイクロLEDの先駆け / ソニー Crystal LED
マイクロLEDの先駆けとなった製品は、2012年ソニーが発表したCrystal LEDディスプレイです。
ユニット構成型のシステムを採用し、115,200画素を敷き詰めた幅約40cm、高さ約45cmのディスプレイユニットを必要に応じて拡張していくシステムです。
このユニットを何枚も繋ぎ合わせて大画面を実現します。繋ぎ目が気になりそうですが、画素ピッチが変わらないよう設計されているため視聴者が繋ぎ目を意識することはありません。まるでひとつの大画面を見ているような感覚です。
20μm角のLEDを1.26mmピッチで並べることで黒色画面比率を99%以上に向上。これにより高コントラストと広色域の豊かな映像表現が可能となりました。また120fpsの高速応答性能に優れ、非常になめらかな映像体験が楽しめるディスプレイとなりました。
ディスプレイの見本市では、440インチ、8KシステムのCrystal LEDディスプレイを展示しその存在感を高めています。
企業への販売・レンタルを積極的に行っており、2018年7月にはNHKが「2018 FIFAワールドカップ」のパブリックビューイングで使用したことでも話題になりました。
これまで企業向けに販売してきたCrystal LEDディスプレイですが、2019年9月には一般家庭用に販売すると発表。ホームシアター用などの需要を見込んでいるようですが、価格は一般コンシューマーが購入するテレビとはゼロの数が2つ3つ違うことから、現状ではほんの一部の人達に限られています。
一般家庭用に4000万円のディスプレイ / サムスン The Wall
快進撃を続ける韓国サムスン、The Wallで存在感を示しています。
サムスンは2018年「CES2018」で146インチの4KマイクロLEDテレビ「The Wall」を発表。翌年の「CES2019」では6K 219インチ、4K 75インチのディスプレイを展示しました。
2019年6月には「The Wall Luxury」として商品化。家庭用ホームシアターとしての利用を見込んでいますが、146インチのディスプレイシステムを構築するには約4000万円程度の費用を要します。材料やトランスファー技術など課題がまだまだ残る中、製造コスト削減のハードルは依然高く、家電量販店などへ並ぶにはもう少し時間がかかるだろうと言うのが専門家の見方です。
LTPSをベースとしたマイクロLED / 京セラ
2019年10月「CEATEC2019」で京セラは次世代ディスプレイ「マイクロLEDディスプレイ」の試作機を展示しました。
1.8インチのディスプレイに数十μmのマイクロLEDを約20万個敷き詰め、200ppiの高精細を実現。ひとつの画素は127μm角。厚みは0.7mm。
京セラのマイクロLEDは、これまで培ってきたLTPS(低温ポリシリコン)で形成されたTFT基板上にマイクロLEDを実装していることが特徴です。現在はガラス基板上で行なっていますが、フィルム基板を用いた研究も進めています。車載やデジタルサイネージなどの使用を想定。
3000ppiに目処をつけた / シャープ
超高解像度ディスプレイを目指すシャープ。
2019年5月、サンフランシスコで開催された「SID Display week 2019」でマイクロLEDディスプレイ「Silicon Display」を発表しました。
特徴はなんと言ってもその解像度にあります。0.38インチのディスプレイに1053ppiを実現。サブピクセルの大きなは8μm x 24μm、これを3つ合わせ1画素では24μm x 24μmサイズとなっています。基板上に青色発光のマイクロLEDを形成し、緑色と赤色の量子ドットを色変換層に用いることでフルカラー化を実現しました。
AR(拡張現実) / VR(仮想現実)ヘッドセット用ディスプレイ用途を想定。さらに高解像度となる3000ppiの開発にも目処をつけていると開発担当者は語っています。
1.6インチディスプレイには27万個のLEDチップが搭載 / JDI
JDIは、LTPSのバックプレーン上にLEDを敷き詰める方式を採用。
2019年12月「ファインテックジャパン2019」で発表した1.6インチディスプレイには27万個のLEDチップが搭載されており、265ppiの解像度を実現。JDIはこのディスプレイ技術を普及させるため、液晶などで使用している「LTPSバックプレーン」をそのまま流用しコストを下げようとしています。JDIは、マイクロLEDへの投資は『有機ELなどに比べて抑えられる』との認識を示しています。
AUO / INNOLUX / Epistar / Lextarなど台湾勢の状況
嘗ての繁栄は何処へ?液晶パネルでは大きな存在感を示していた台湾勢は、現在の有機ELでは韓国勢、中国勢に遅れを取り厳しい状況が続いています。そんな彼らが巻き返しを図ろうとしているのが、このマイクロ・ミニLEDディスプレイです。
近年の「Touch Taiwan」では、マイクロLEDやミニLEDに関するものが多く、一部は実用化が始まっているものもあります。
日本勢と同様にRGBのマイクロ・ミニLEDを敷き詰めたディスプレイがある一方、台湾勢の特徴としては直下型のミニLEDをバックライトとして搭載したLCDが多いのが特徴。これはLCD(液晶)とミニLEDを組み合わせたものであり、ゲーミングディスプレイなどの使用を想定しています。
台湾勢は市場として既に動き出しているミニLEDバックライト方式で利益をあげようと開発を積極的に進めています。
65インチ量子ドットLED技術を採用したTCL
世界第2位のテレビメーカーが日本上陸
1981年に中国で設立され、近年急成長をしている家電メーカーTCL。日本ではまだ馴染みはありませんが、世界160以上の国で事業を展開しています。
2019年9月に発売された「X10」シリーズは量子ドットLED技術「QLED」を採用した最上位モデル。ディスプレイ直下に15000個のミニLEDライトを搭載。従来の液晶テレビよりも3倍以上の輝度(最高ピーク輝度1500nits)を実現。画面を768ゾーンごとに個別にコントロールし、LEDを部分ごとに細かくコントロールする「ローカルディミング」を搭載。
ゲーミングモニター ASUS
ASUSは2019年9月、直下型ミニLEDバックライト搭載する「ProArt PA32UCX」を発売。
4K 32インチのクリエイター向けディスプレイという位置づけです。世界初のピーク輝度1,200 nits、ミニLEDバックライト搭載の32型4K HDRモニターで、1,152ゾーンのローカルディミング制御を可能。Dolby Vision™、HLG、HDR-10を含む複数のHDRフォーマットをサポート。
世界初のミニLEDを搭載したノートパソコン MSI
2019年12月、MSIは世界初のミニLED搭載のノートパソコンを発表。
最高で1,000cd/平方mを実現するミニLEDバックライトを採用し、240分割のローカルディミングを実現。
アップルからミニLED搭載のiPadが発売/h2>
2021年5月、アップルからミニLEDを搭載したiPad Pro 12.9インチが発売されました。
新開発の「Liquid Retina XDRディスプレイ」を搭載し、最大輝度は1,600ニット、コントラストは100万対1、HDRネイティブ表示にも対応しました。12.9インチのディスプレイに1万個以上のミニLEDが搭載されたディスプレイとなります。